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万年筆とノートでスコットランドから技術を盗んでいった青年

■日本にあったウイスキーという代物
19世紀にアメリカにウイスキーが伝わったのを受けて、日本にもウイスキーなるお酒が登場します。
けれど、それは本物のウイスキーを知っている人にとってはウイスキーとは名ばかりの、奇天烈なお酒でした。
日本の人に本物のウイスキーを飲んでもらいたいという思いから、一人の青年がウイスキー造りに情熱を傾けます。
それがニッカウヰスキー創業者の竹鶴政孝で、ジャパニーズウイスキーの父と呼ばれる人物です。
おそらく彼ほど日本で売られていた奇妙なウイスキーに、歯がゆい思いをした人物はいなかったことでしょう。
例外は寿屋洋酒店の創業者で、サントリーの生みの親である鳥井信治郎くらいだったかもしれません。

■摂津酒造が送り込んだ逸材
竹鶴政孝は現在の大阪大学工学部の醸造科で酒造りを学んだ頭脳名正規な青年で、卒業を待たずにまだまだ日本人にはなじみがない洋酒業界のドンであった摂津酒造に技術者として入社します。
政孝が手掛けた赤玉ポートワインの出来栄えが非常に素晴らしかったことから、一躍腕利きの酒造家として知られるようになったことから白羽の矢が立ち、摂津酒造の社長と常務からスコットランドへ行って本場のスコッチウイスキーの造り方を学んでくるようにと命じられます。
時に1918年、政孝24歳のことで、摂津酒造にとってはまさに逸材を送り込んでのウイスキー造りへの大プロジェクトが始まったのです。

■1本の万年筆とノートを持った盗人
政孝はスコットランドで学んだスコッチウイスキーの製造方法と、蒸留機であるポットスチルの内部構造までを細かく調べつくし、のちに日本で本場スコットランドに負けない上質のウイスキーを造り出します。
英国の首相は親しみを込めて、頭のよい青年がやってきて、1本の万年筆とノートでスコッチウイスキー造りの秘密を盗んでいったとスピーチをしたことは有名です。
この頭のよい盗人青年こそが竹鶴政孝で、ユーモアを交えたこのスピーチはイギリス人特有の称賛だったのでしょう。
実際、政孝が記したノートは几帳面な文字で丁寧に書かれており、修正が効かない万年筆で書かれているにもかかわらず、誤字が一切見当たりません。
細かく記したポットスチルの絵までが万年筆で書かれているのですから、政孝という人がどれほど頭のよい人であったかがわかります。
現在は竹鶴ノートと呼ばれるこのノートは、まさに政孝の人となりをも表しているのです。
さらに、このノートは自分自身の覚書というよりは、多くの人に知識を伝えたいという目的で書かれたことは明白です。
すべての説明が、非常に丁寧な言葉遣いで書かれているからです。
このことからも、竹鶴政孝が日本でウイスキーを造るために、多くの人にわかるように記録を残すことが自らに課された使命だと理解していたことがはっきりとわかります。
とはいえ、多くの苦労をして得た知識を人に惜しみなく与えるというのはなかなかできることではないものですが、その知識を独り占めすることなく、そして丁寧にわかりやすく書き残したことからも、なぜこの人がジャパニーズウイスキーの父と呼ばれたかが十分わかる貴重な記録です。
この竹鶴ノートは今も大切に保管されており、その歴史的価値もまた大変大きなものとなっています。

■意外とたくさんあったニッカの記念ボトル
ニッカウヰスキーのボトルは、竹鶴政孝が残した几帳面な竹鶴ノートのイメージから、正統派なものが多いと感じるものの、実は意外とたくさんの記念ボトルを造っています。
NIKKA（ニッカ） G&G 漫画集団 60周年記念ボトルは、漫画集団結成60周年を記念してニッカウヰスキーが造ったものですが、この漫画集団とは、アメリカで流行ったナンセンス漫画の影響を受けで大人の漫画を描く漫画家が集まった団体のことです。
1932年6月に若い漫画家たち20人が集まって新漫画派集団という名に改名されたのち、あの有名な赤塚不二夫や藤子不二雄、そして手塚治虫も参加しており、今では造られていないことから大変貴重でレアなニッカウヰスキーとなっています。