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今も昔も変わらないランキング好きという要素

■さまざまなものがランキングで評価される時代
現代社会ではいろいろなことが目まぐるしく変わりますが、その中でもかなり大きく変わったのは買い物の仕方でしょう。
かつては店に行き、商品の特徴や値段を調べ、購入する価値があるかどうかを判断していました。
日本酒を購入する時も同様に、複数の酒店があればいくつか巡り、気に入った酒がないかを探したり、お気に入りの銘柄がある場合には少しでも安く買えたりするところを探したりして歩き回ったという人も多いでしょう。
それが、今やパソコンとインターネット環境さえあれば、クリック1つで買えてしまいます。
さらにはランキングによって、今最も注目されているお酒はどれなのかや、よく売れているお酒がすぐにわかることから、ランキングを見てつい買ってしまう人も増えています。
インターネットでの買い物が盛んになった背景には、地方の地酒の酒蔵においしい日本酒があると広く知れ渡ったためで、手に入れるにはインターネットが最も簡単だったり、あるいはサイトからしか買えなかったりするという場合もあり、ランキングの更新もより活発になるのも無理はありません。

■現代人だけではなかったランキングでの評価
とにかく何事においてもランキングを付けたがる現代人ですが、実はこの気質は江戸時代の人たちにも見られ、非常に興味深いと言えるでしょう。
特に江戸っ子は何かにつけて順位を付けるのが好きで、これを表にしたのが相撲でおなじみの番付表です。
江戸っ子のランキング好きは多岐にわたり、名物から物見遊山、人物といった目に見えるものから、人情や常識に関する番付表もあったと言われるため、現代人よりもすごかったかもしれません。
そんなランキングが大好きだった江戸っ子たちが好んだ番付表には、日本酒に因んだものもあります。
名酒づくしと呼ばれる番付表で、江戸時代中期に下り酒として人気を集めた銘酒を順位付けしたものです。

■下り酒とは
下り酒とは、江戸時代に上方で造られ、船で江戸へと運ばれた酒のことを言います。
現在とは上り下りの方向の定義が逆ですが、上方の酒どころである池田に伊丹、西宮に灘といったあたりの酒が江戸で大人気を博しました。
これらの酒に共通する特徴は、陸路ではなく水路を使って江戸まで運ばれたことです。
船に積んだ酒が揺られることによって、うまい具合に和んで口当たりが良くなったため、江戸の地酒よりもはるかに人気が出たのです。
酒の人気はかなりのもので、番付表には東西に分かれて合計134もの蔵が記されています。
名酒づくしの番付表においては、横綱以下の上位はすべて、伊丹、池田、そして西宮の蔵が占めており、意外にも灘はこれらの下に位置しています。
のちに江戸では、酒は灘に限ると言われるようになりますが、江戸時代中期に造られたランキングである下り酒の銘酒づくしにおいては、灘の酒はまだまだ他の酒蔵の質からは遅れていたことがわかる、貴重な資料と言えるでしょう。

■得意な方ではない造り方をあえて選択した結果は
近年では日本全国津々浦々の地酒をランキングにし、一度は飲んでみたい銘酒を紹介することが多くなりました。
そんなランキングの中に必ずと言っていいほど名を連ねるのが、石川県白山市にある老舗の酒蔵、菊姫合資会社です。
戦後、すっかり造られなくなっていた山廃仕込みを復活させ、日本酒で初の山廃仕込み純米酒を造ったという、山廃仕込みに絶対の自信を持っている酒造会社ですが、菊姫の純米酒の中で最高級とされる菊姫 純米酒 特選純米は、得意なはずの山廃仕込みでは造っていないのが特徴です。
山廃仕込みはどちらかというと剛健な味わいに仕上がる男酒となるため、まろやかな深みのある味わいを引き出すには、速醸酵母の方がいいと判断したためです。
2～3年の熟成期間を置くという、それはそれで手間暇のかかる方法で造られた特選純米だけあって、熟成させることによって生じるナッツやカラメルのような香りとハチミツのような甘やかなコクが、米の醸し出す能淳な味わいをより引き立て、今までになかった逸品の日本酒となっています。