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■モートラックの歩みと親子が開拓した蒸留システム

スコットランド北東で「ウイスキーの聖地」と呼ばれるスペイサイド地方の一角にあるダフタウン。
ゆるやかな時間が流れる人口１,５００人ほどの小さな村に、１８２３年から操業を続けるモートラック蒸留所があります。
まもなく創業から２００年を迎えようというモートラックは、ダフタウンで初めて政府公認を得た蒸留所であり、その歴史は古く１８８７年にシングルモルトの先駆けとなったグレンフィディック蒸留所ができるまでは、この地でたった一つの蒸留所として稼働していました。
当初はオーナーの入れ代わりも度重なり右往左往する不安定な経営状態が続きましたが、３０年を経過した１８５３年に鉄道業界で名を馳せた地元のエンジニア、ジョージ・コーウィーが共同所有者として加わったことを転機に、モートラックはほかに類を見ない独自の製法と唯一無二の風味を生み出します。
類稀な才能を持つ技術者だったジョージ・コーウィーは、スコットランドの鉄橋やトンネル、駅などの構築に大きく貢献し、当時の英国経済を支えた大変優秀な人物でした。
鉄道業界で名を馳せたジョージは、モートラック蒸溜所のオーナーとして最高級シングルモルトウイスキーをつくること、そして地域産業に貢献したいという意欲と情熱を持ってウイスキーづくりという新たな挑戦に挑んだのです。
技術者としての秀でた視点を活かしてこれまでモートラックが行ってきたウイスキー製造の工程の再構築を目指し、ウイスキーの味わいを科学的に分析するためにロンドン大学で薬学を先行していた息子アレクサンダー・コーウィーを呼び寄せ、新しい蒸溜システム「２.８１回蒸留」の開発に成功します。
後継者となったアレクサンダーの功績は非常に大きく、ウイスキー通の間で「ダフタウンの野獣」と喩えられるほどの圧倒的な力強さと芳醇な味わいを持つ唯一無二の「モートラック」を今に伝えています。

■２.８１回蒸溜が生み出すダフタウンの野獣

モートラックのリッチで輪郭のある重厚な味わいには、ほかを寄せ付けない圧倒的な力強さがあり、ウイスキーの専門家たちや愛飲家から「ダフタウンの野獣」と呼ばれているのだとか。
パワフルで深みのあるモートラックならではの風味を生み出すカギは、先にも述べた独自の蒸溜システム「２.８１回蒸溜」にあります。
備えつけられたポットスチルはすべて大きさや形状が異なっており、熟練の職人でも「プロセスを理解するのに半年以上はかかる」と唸らせるほど複雑で難解な構造は、ひと言で説明するのは到底不可能と言えるでしょう。
モートラックの製造工程が他の蒸留所と大きく異なるのは、６つある蒸留器を「初溜釜」と「再溜釜」に使い分ける独自のシステムにあります。
通常であればポットスチルで初溜と再溜と２回の蒸溜を経てニューポットをつくるところを、モートラック蒸留所では２回蒸留を経たニューポット以外に、ヘッドの２分の１を再蒸溜したニューポット、そしてスピリッツ５分の１のみを「ウィーウィッチ（小さな魔女）」と名付けられた中型のスチルで３パターン再蒸溜したニューポットとタイプが異なる３種類のスピリッツをつくります。
そして、最高級のオーク樽を熟成に使用し、独創的なスコッチウイスキーに仕上げています。
知識と技術者としてのプライドを懸け、ひと手間を惜しむことなく丁寧かつきめ細やかな工程を組み込んでいるからこそ、真似のできないモートラックならではの深い香りとパワフルで重厚な味わいが生まれるのです。

■「モートラック レアオールド」の特徴

２０１５年３月６日に定価９,８００円で発売されたノンエイジの「モートラック レアオールド」は、新たに創設したジャンル「ウルトラプレミアム・シングルモルト・スコッチウイスキー」の名にふさわしい力強さと、甘味とドライが絶妙なバランスを保った上品な逸品に仕上がっています。
シェリー樽とバーボン樽を精巧に組み合わせたオリジナルのリメード樽で熟成しているレアオールドは、シェリー由来のプラムやレーズンが先に来て、後からバーボン由来のバニラやカスタード、カカオが後を追います。
若いウイスキーに影響される刺激を極力までバランスよく抑えたその味わいは、モートラック特有の複雑さを兼ねそろえた力強さと活き活きした清涼感で、華やかな香りを纏いながら心地の良いフィニッシュへと導きます。
レアオールドは残念ながら２０１９年に終売となったものの、まだ多くのボトルが流通していますので、巡り合うことがあればぜひ一度その魅力に触れてみてはいかがでしょうか。