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宇宙を見て来たアードベックを記念する超新星

■アイラの岬に誕生した数奇な運命の蒸溜所
アードベッグ蒸留所は、スコットランドのアイラ島にある蒸留所です。
島南部の海沿いにあり、ゴツゴツとした岩の岬に誕生したのは1815年のことです。
もっともこれは公式に設立となった年であり、実際には1794年に前身となる非公式な蒸留所はすでに誕生していました。
密造が発覚し、一度は施設が閉鎖となりましたが、あらためて操業する運びとなったわけです。
ただし、アードベッグ蒸留所はその後の運命も数奇なものでした。
熱狂的なファンがいて名声も高い蒸留所なのですが、歴史的に見ると数々の苦難の連続で、何度となく閉鎖の危機に見舞われます。
1970年代にカナダのウィスキー会社に買収されるも、1981年には操業停止の事態となります。
しかしながらその8年後の1989年にはイギリスの企業の買収により操業が再開、しかして1996年にはまたしても操業停止となります。
この停止は翌年に解消され、スコットランドのシングルモルトウィスキーのグレンモーレンジが買収しましたが、結局は2000年代にLVMHの買収でようやく落ち着きました。
ざっと年代を追っただけでもこれだけ閉鎖の危機に陥り、その度に復活を遂げるというのは、実に数奇な運命と言わざるを得ません。
何度も危機に見舞われつつも、存続を願う人々の熱狂的な愛により、何度となく窮地からの復活劇を演じて来た、底知れない魅力を秘めたブランドと言えるでしょう。

■苦難の連続だったアードベッグ
同じくスコットランドの会社、グレンモーレンジが買収し、スタッフが当時アードベッグに赴任した時のことです。
蒸留所の壁に引っかけてあった靴箱を不審に思って取ってみると、下から電気のブレーカーが出てきたと言います。
ブレーカーのカバーですら修理することが出来ない、それ程までに切り詰めた状況下であっても、職工たちはウィスキーづくりを必死に続けていたのでしょう。
当時の蒸留所は本当にボロボロで、今の攻勢からは想像もできない状態だったと言います。
現在はファッション最大手のLVMHの資本で落ち着いていますが、現在ブランドの礎となったのは、やはりグレンモーレンジの買収がきっかけであったことは間違いありません。
ボトルや箱に描かれているロゴには鎖がモチーフとなっていますが、そこにはアードベッグが門戸を開いていられるようにという切実な願いが込められていると言われています。

■クセの強い独特なモルトウィスキーが宇宙へ
アードベッグを愛してやまない人は、数あるアイラモルトの中でもひときわ強烈な個性を熱愛しています。
スモーキーでピーティ、そこにフルーティな甘味が絡んで、忘れられない味わいを印象付けます。
ピートを強く炊き込んだ麦芽を使用するのはアイラの特徴ですが、その中でも最強と言われるのがこのアードベッグです。
ピートレベルはフェノール値で表されますが、アードベッグは約55ppm、他のブランドは高くても40～50ppm、低いと5ppm程度しかありませんから、この差は歴然です。
このアードベッグを使って行われた実験が宇宙でのウィスキー造りです。
国際宇宙ステーション(ISS)での研究の誘いに応じ、アードベッグ蒸留所が熟成と重力の関係を調べるためにウィスキーを打ち上げたのが2011年10月のことです。
このアードベッグは2014年9月に無事地球に帰還しましたが、結論から言うと、地上とは顕著に異なる熟成を確認したと言います。
アルコールなど揮発性有機化合物の数値は差はなかったものの、微小重力下ではオーク材がウィスキーにより多く浸かり、成分レベルに差が生じました。
味も香りもISSのサンプルは異なり、アードベッグのスモーキーさやフェノール類の性質が更に強くなったと感じたそうです。

■アードベッグスーパーノヴァ2015
スーパーノヴァは超新星の意味ですが、アードベッグから初めて登場したのは2009年と2010年で、これはもっともピートレベルが高いアードベッグとして限定発売されました。
熱狂的なファンからは復活を待ち望む声が高く、宇宙へのアードベッグの打ち上げを記念してリリースされたのが、スーパーノヴァ2015です。
超新星の名にふさわしく、飲むと焼けつくような強さがありますが、余韻が長く尾を引く特徴的な味わいです。
もちろん実際に宇宙に行って来たアードベッグではありませんが、まさにこの名に相応しいエピソードと言えるでしょう。