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ウイスキーのヴィンテージの秘密は樽にあった

■ウイスキーの定義

現在、世界中にその名を知られるようになったスコットランドで造られるスコッチウイスキーをはじめ、アメリカで造られるバーボンウイスキーや、日本のウイスキーづくりに尽力したサントリーの鳥井信治郎やニッカウヰスキーの竹鶴政孝のおかげで優れた品質となったジャパニーズウイスキーの全ては、樽で熟成されることが絶対条件です。
つまり、ウイスキーと呼べるお酒にするためには、樽での熟成が欠かせないのです。
元々、スコットランドやアイルランドで造られていたウイスキーは、蒸留酒という点では現在と同じですが、蒸溜してすぐに飲んでいたことから無色透明でした。
琥珀色をしたお酒がウイスキーというイメージがすっかり定着していることから、無色透明のウイスキーを想像するのは難しいですが、琥珀色へと変化させたのが樽の力です。
本格的なウイスキーの蒸溜を行い始めたスコットランドでは、蒸溜仕立てとはいえ、多くの人がこのお酒を好んで飲んでいました。
そんなスコットランドと常に戦いを繰り広げていたイングランドが、スコットランド議会をつぶして併合した際に、スコットランドで飲まれていたお酒に他の品目に比べて20～30倍もの高い税率を課すという法律を決めたのです。
高い税金を払ったのでは採算が取れないスコットランドのウイスキー蒸溜業者は、こぞって造ったお酒を隠すようになりました。
これが、スコットランドに密造酒を増やした最大の原因です。
蒸溜したお酒はシェリー酒の空き樽に詰められましたが、非常に大きいことから大量に詰められるのもメリットだったと考えられます。
税金を免れるために密造酒を造らざるを得ない状況に陥ったことが、奇しくも現在のウイスキーと呼ぶためには不可欠な工程である樽での熟成という工程を生み出したのです。

■樽の種類もいろいろ

スコットランドで役人の目を逃れるためにウイスキーを詰めたのは、シェリー樽でした。
シェリー樽はスペインのお酒であるシェリー酒を詰めた樽で、この樽に入れて隠したことで無色透明だった蒸溜仕立てのウイスキーは熟成され、豊潤な味と香りを持つ琥珀色の液体に変化したのです。
その後、ウイスキーは樽に入れ、熟成させて造るようになりますが、アメリカのトウモロコシを原料に造られるバーボンウイスキーは、法律によって熟成させるバーボン樽は常に新しいものを使わなくてはならないと定められています。
つまり、一度使うと二度と利用することはできないわけです。
そのため、一度使ったバーボン樽は、バーボンウイスキー以外のウイスキーを熟成させるために海外で利用されるようになります。
また、オークと呼ばれる木材から造られるオーク樽というものもあり、ウイスキーだけでなくほかの様々なお酒も美味しく熟成させるのが特徴です。
スコッチウイスキーには、厳密にどの樽を使うべしという決まりはなく、実際、元々は手元にあったシェリー樽に入れて隠しました。
シェリー樽があったのは、イギリスでは古くからシェリー酒を大量に輸入していたためでしょう。
その結果、最初のスコッチウイスキーはシェリー酒が持つ豊潤な風味を採り入れた熟成になったのも納得です。
現在は、9割がアメリカのバーボンウイスキーを熟成したホワイトオークのバーボン樽が使われています。
アメリカの法律で一度使用したバーボンウイスキーの樽は廃棄処分される運命にあることから、バーボン樽が安く手に入ることも理由です。
こうしてスコッチウイスキーはバーボン樽で熟成されることが多くなったものの、使う樽にこだわりを持っているメーカーは多くあります。

■アラン蒸溜所はどうか

シングルモルトにこだわるアランは、樽にはこだわりを持っている蒸溜所です。
そんなアランが造ったウイスキー、「アラン オークニーベア」は、スコットランド最古の希少品種の麦とされるベアを使い、実験的に造ったウイスキーです。
珍しい麦を使っていることや2週間だけ製造し、世界で5800本だけを売り出したことなどもあって、まだ歴史の浅いアランウイスキーが、ウイスキー好きからかなりの注目を集める一本を売り出したと言えます。