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サウンド・オブ・アイラの水面に姿を映す蒸溜所

■サウンド・オブ・アイラを見下ろす蒸溜所

アイラ島とジュラ島に挟まれた細い海峡、その名をサウンド・オブ・アイラと言います。
1846年、このサウンド・オブ・アイラを見下ろす位置に、グラスゴー蒸溜所の所有者であったヘクター・ヘンダーソンがカリラ蒸溜所を建設しました。
今もカリラ蒸溜所へ行くには小さな家々が佇む集合住宅街の中を通り、サウンド・オブ・アイラへ向かって丘を下りていきます。
過去、カリラ蒸溜所で働くたくさんの所員たちが毎日通ったこの同じルートを、現在もサウンド・オブ・アイラの水面に映る蒸溜所へ通うスタッフたちが通勤しています。
ヘンダーソンは水源であるロッホ・ナム・バンに近く、ピートの切り出しに便利な土地に蒸溜所を建設しようと考え、このサウンド・オブ・アイラの入り江の麓に目をつけました。
19世紀から美しいまま変わらないこの土地は、蒸溜所として決して悪い選択ではなかったはずです。
それでもヘンダーソンの事業は失敗し、6年足らずでジュラ蒸溜所の所有者ノーマン・ブキャナンがカリラを獲得することになりました。
このひっそりとした蒸溜所がにわかに忙しく稼働し始めるのは、1863年になってからです。
この年、ブレンデッドウイスキーの爆発的人気を受け、ウイスキートレーダーのバロック・レイド社が在庫拡大のためカリラ蒸溜所を買収します。
そこからおよそ60年間にわたりバロック・レイド社はカリラ蒸溜所の改良を重ね、規模を拡大し、一気に収益を上げ始めることになりました。
同社が社名のB.L.を冠したB.L.Bulloch Lade’sは、オールドボトル「オレンジラベル」と呼ばれ、現在伝説とまで呼ばれるプレミアムボトルとなっています。

■敷地内に桟橋まで建設する盛況から一転閉鎖へ

1879年、カリラ蒸溜所は何度も規模を拡張され、テコ入れを繰り返し、敷地内に独自の桟橋を建設して蒸気船が乗り付けるほどの一大工場へと進化します。
蒸溜所への供給品を山ほど運び入れ、帰りはカリラのウイスキーを目いっぱい積み込み、本土で販売するために蒸気船は何往復もしたことでしょう。
そんな盛況を見せたバロック・レイド社も1920年には会社として清算され、カリラ蒸溜所はカリラ・ディスティラーズ社の所有となりました。
1927年にはDCLの傘下となりディスティラーズ社が蒸溜所の支配権を獲得しますが、1930年からは閉鎖され、1941年からは世界大戦の影響で稼働できなくなり、1972年までは忘れ去られた存在となるのです。

■平和な世界で花開いたジョニー・ウォーカー

カリラ蒸溜所が現在の名声を得るきっかけになったのは、ブレンデッドウイスキーの需要が再燃した1974年からのことです。
平和な世に求められるままウイスキーの需要は拡大し、カリラ蒸溜所もまったく新しい体制のもと、全面改変し稼働を始めることになります。
このとき蒸溜器は2基から6基にまで増え、そこで造られたクセがなく味わい深いモルトは、世界中で大ヒットしたジョニー・ウォーカーの原酒としてリリースされることになりました。
ジョニー・ウォーカーは世界的に有名なウイスキーですが、日本でも「ジョニ黒」「ジョニ赤」というニックネームで庶民から憧れられたブランドです。
確かに当時、黒の実売価格で1万円もするボトルでしたから、大卒初任給2か月分が飛んでなくなるほどの高級酒だったといえるでしょう。
ただ、12年以上熟成した40種以上ものモルト原酒が使われている贅沢なブレンデッドウイスキーのため、その価格にも納得せざるを得ません。
カリラ蒸溜所で造られたモルト原酒も、その40種の中に選ばれていたわけです。
現在カリラ蒸溜所はディアジオ社の傘下となり、2017年にはアイラ島最大の蒸溜所へ成長し、今も昔と変わらず実直なウイスキー造りを行っています。

■カリラ 30年 スペシャルリリース 2014

カリラ 30年 スペシャルリリース 2014は、最長熟成品リミテッドエディションのナチュラルカスクストレングスシングルモルトです。
カリラらしい柔らかくまろやかな口当たりの中に、アイラを主張するスモーキーさとスパイシーさがしっかりと存在感を出しています。
アルコール度数は強めで全体的に力強い麦感がありますが、複雑でありながらもバランスが取れた上質な味わいはさすがといった完成度でしょう。
カリラを知る人の想像を超えてくる逸品です。