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■ただ一つだけ違う地域のシャトー
1855年、ナポレオン3世によってメドックのシャトーの格付けが行われ、これによって4つの第一級格付けワインを生み出すシャトーが決められました。
その際、有力候補であり、誰もが第一級格付け間違いなしと思っていたシャトー・ムートン・ロートシルトの第二級格付けというアクシデントが起こり、今でこそ有名なボルドーワインの5大シャトーは、最初は4大シャトーだったことが分かります。
その後、118年の時を経て、シャトー・ムートン・ロートシルトの執念が実り、第一級格付けが認められ、5大シャトーとなりますが、そもそも4大シャトーの中にあって、たった一つだけ、メドック地区のシャトーではなかったところがあります。
それが、シャトー・オー・ブリオンです。
シャトー・オー・ブリオンはメドック地区ではなく、グラーヴ地区にあるシャトーで、第一級格付けであるシャトー・オー・ブリオンのセカンド・ワインも生産しています。
また、白ワインも作っており、シャトー・オー・ブリオン・ブランという名の辛口であるのが特徴です。
ボルドーといえば赤ワインというイメージがあるだけに、レ・プランティエール・デュ・オー・ブリオンという名の辛口白ワインのセカンド・ラインまでも作っているという点で、非常に多彩なワインを作り出しているシャトーと言えます。

■古くからブドウの産地だった
ローマ時代からブドウが生えていたと思われる文献が残っているものの、本格的に耕してブドウづくりを始めたのは1423年のことです。
とはいえ、本格的にシャトーとして動き出すのは1549年で、ワインの人気が本格化するのはさらに後の1649年だったとされています。
1649年、シャトー・オー・ブリオンの所有者はアルノー3世・ド・ポンタック卿で、この時、ワインの人気が本格的なものとなります。
シャトー・オー・ブリオンのワインについての記述は、イングランドの王であるチャールズ2世のワインセラーの中で見つかり、このフランスからのワインはいまだかつて味わったことがないほどおいしいものだったと記載されていることから考えて、オー・ブリオンのワインがイングランドで高い評価を得ていたことが分かります。
17世紀にはポンタック家がオー・ブリオンを所有したこともあり、作られたワインはしばしばポンタックの名で売り出されるようになります。
ポンタック家はワイン農園を持っていたことから、ポンタックの名を使用することができたためですが、これによってオー・ブリオンの名がどこで消えたかがはっきりしなくなってしまったのです。

■シャトー・オー・ブリオンとしての復活
1787年に駐仏大使だったトーマス・ジェファーソンがオー・ブリオンを訪れ、その土地について詳しく調べています。
これによってシャトー・オー・ブリオンのワインは第一級ワインとして初めて、アメリカ合衆国に渡ることとなったのです。
フランス革命の時には所有者が次々に変わるという悲劇に見舞われ、最後には競売に掛けられたシャトー・オー・ブリオンを買い取り、一つにまとめ上げたのがジョゼフ=ウージェーヌ・ラリューでした。
ラリュー家は1923年までシャトーの持ち主だったことから、1855年のメドックの格付けの際、メドックではなくグラーヴのワインでありながら、第一級格付けの名誉を勝ち得たという、異色のシャトーの名誉に浴したことになります。
そんなシャトー・オー・ブリオンの1989年は、非常に深みのあるルビー色が美しく、グラーヴの特徴でもあるタンニンの渋みの少ない、柔らかな味わいです。
そのため、これ以上のワインはできないといわれるほど、特別な逸品になっています。
パーカー・ポイントで100点満点が付いていることからもわかるように、まさに非の打ちどころのないワインに仕上がったシャトー・オー・ブリオン1989年は、飲んだ人にワインに対する畏敬の念をかきたてるほどだとまで言われるほどの出来栄えから、かなりの高値で取引されています。
5大シャトーの中では唯一、生産地区が異なるボルドーワインのため、1989年ほどの上物でなくても、一度は味わってみたいワインです。