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■四大シャトーを五大シャトーに変えたムートン
ボルドーワインの頂点と言えば、世界中から常に注目を浴びる五大シャトーが有名です。
シャトー・ムートン・ロートシルトはその内の栄えある一つではありますが、実は100年以上もかけて第2級から第1級へとのし上がった唯一のシャトーでもあります。
ボルドー産の赤ワインの中でもっとも偉大なクラレットとも称されるほど濃厚で芳醇な味わいが特徴ですが、この圧倒的な存在感は他には見られない強い個性を持っています。
永きに渡り一切変更されることのなかったメドックの格付けを覆し、第1級に格上げされたその実力は、まさに他者を圧倒する並外れたものと言えます。
名前の通り、シャトー・ムートン・ロートシルトはユダヤ系のロートシルト家（ロスチャイルド家）に買収されました。
それが1853年のことですが、2年後に行われたメドックの格付けで、1級を取ると思い込まれていたシャトー・ムートン・ロートシルトは2級の格付けとなってしまいます。
ロートシルト家は大きなショックを受け、同時に奮起し、1級になれず2級には甘んじられない、ムートンはムートンだと宣言し、1級獲得のために抜本的に動き出します。
畑の改善、醸造技術や熟成方法の改良、そうした努力と研究とを積み重ね、118年後の1973年に本当に格付けを覆してしまったのです。
実に4世代にも渡り、シャトー・ムートン・ロートシルトは昇格の悲願を達成しました。
それでもその時の当主が残したのは、ムートンは昔も今も変わらないという名句だったと言われています。

■革新的なアートラベル
シャトー・ムートン・ロートシルトを語る時に欠かせないのが、革新的なラベルの存在です。
1945年以降、シャトー・ムートン・ロートシルトは毎年著名なアーティストにラベルのデザインを依頼しています。
しかもその顔触れは、1958年にダリ、1969年にミロ、1970年にシャガール、1975年にアンディウォーホルというものですから、どれほど豪華なアーティストかは言わずもがなでしょう。
このラベルのためだけにワインを購入するコレクターも世界中に存在しますが、確かに非常に美しく、手元に置いて眺めていたいラベルなのは間違いありません。
このラベル・コレクションは、フィリップ・ド・ロートシルト男爵が火付け役となりました。
男爵は1922年から当主を務めていますが、非常に独創的なアイデアで改革的な活動を続けたカリスマ的な人物と言われています。
何が一番すごいかと言えば、ワインをボトリングして販売を始めた当人だという歴史的事実です。
今では当たり前となったこの販売方法を、世界で初めて行った人物なのですから、これは驚きでしょう。

■豪勢で派手なシャトー・ムートン・ロートシルトの1982年
五大シャトーの中で一番派手と言われるシャトー・ムートン・ロートシルトですが、確かに濃厚で芳醇なリッチな味わいにはエキゾチックな魅力もあります。
とても魅惑的なワインに加えて美しいラベルを持つ逸品ですが、特別な日に用意するギフトとして長年愛されているのも納得でしょう。
1982年は、ポーイヤック地区を代表するベストワインに選出されたヴィンテージワインです。
他の年代より並外れた実力があると言われ、アートラベルは映画監督のジョン・ヒューストンによって手掛けられました。
白鯨や許されざる者を撮った有名監督ですが、ラベルは水彩で淡く、青を基調としたベースに白い羊が楽し気に舞っています。
ただ、ムートンという名称とシャトーのトレードマークの牡羊から、ムートンは羊のことと思っている人はとても多いのですが、実は違います。
この地方の古い言葉でmothonという言葉があり、これは現在のフランス語ではmotte、つまり土塊の意味になります。
では牡羊のマークはなぜ、と思いますが、先代のバロン・フィリップが牡羊座生まれだったということや、その頃にはすでにみんなが羊だと思っていたので、シャレのつもりだったようです。
なんともユニークなエピソードも、ムートンにはぴったりです。