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各国首脳が日本で乾杯した磯自慢

■洞爺湖サミットの乾杯を飾った酒

磯自慢は、平成20年に洞爺湖で開かれたサミットの乾杯酒と記憶している人も多いでしょう。
手掛けているのは磯自慢酒造株式会社で、蔵は駿河湾や伊豆半島、日本が誇る富士山や遠く南アルプス南端を望む焼津の地にあります。
この地には南アルプスの白峰三山や間ノ岳を源泉とする清流大井川がゆるやかに流れ、約170kmにわたり名水の恵みを与えています。
焼津の志太平野は日本神話の地でもあります。
その昔、日本武尊が天叢雲剣で周囲の草を薙ぎ払ったと伝わる伝承の地であり、雄大な自然が今も残されている地です。
ここに蔵を構える磯自慢酒造の操業は天保元年（1830年）、非常に長い歴史を持つ老舗酒蔵といえます。
江戸時代に創業した酒蔵は多いですが、焼津の地主であり庄屋として年貢米の集積や輸送を代行する中で農業経営と農閑期の酒造りを生業としていました。
今も磯自慢酒造の酒造りは、10月始めに酒造りの神様を祀る神事から始められています。
杜氏を筆頭に蔵人たちは昔ながらの技術で呼吸を合わせ、生き物と対話するかのように休むことなく酒造りに勤しんでいます。

■高品質な酒造りに舵を切った歴史

戦後、GHQによる農地解放政策が施行されると、副業として行われていた酒造りが専業化していくことになります。
高度経済成長期時代には日本酒の消費量も一気に増加し、当時は大手メーカーでも酒の生産が追い付かない状況だったのです。
ところが順調に消費量を伸ばした日本酒も、昭和末のバブル期には輸入関税引き下げによる洋酒ブームに押されるようになります。
日本に多種類の酒文化がもたらされたのはよいことですが、当時の若い世代はカクテルなどのおしゃれな酒ばかりを追い求め、日本酒には目を向けなくなりました。
レストランが増加する中、食文化も変化し、海外志向の高まりとともに日本酒は完全に波に乗り遅れてしまいます。
ただここで危機感を抱いた磯自慢酒造は、自分たちの酒を高品質化することで生き残る道を見出しました。
磯自慢酒造の社長 寺岡洋司 氏は、大学卒業後に酒類の商社で修行した経験があり、この危機を乗り越える施策に乗り出します。
昭和50年頃、当時社長で現会長の父親と話し合い、高品質な酒を造るために大きく経営の舵を切ったのです。
このときの英断が、現在の磯自慢の地位を築いたといっても過言ではないでしょう。
大変な苦労を乗り越え、酒造は今に至る品質の基礎を作り上げたのです。
当時、地方の少数の酒造が磯自慢と同じように考え、本物のいい酒を造ることに舵を切っています。
現在、世界が認めるレベルにまで日本酒のクオリティが上がった背景には、磯自慢をはじめとする地方の酒造が、このときに下した英断が大きく影響していることは間違いないでしょう。
磯自慢酒造のベースにあるのは、磯自慢を手にする人の信頼を決して裏切らないという一点です。
酒造りは毎年条件が変わり、原料の出来具合も気候も大きく異なります。
難しい条件の中でもいかに期待を裏切らない磯自慢を造るか、信頼の品質を再現するために技術や設備への投資を惜しまない姿勢が、洞爺湖での乾杯を生んだのです。

■数々の受賞歴

磯自慢は、全国新酒鑑評会など伝統的な日本酒コンクールで金賞を受賞する評価の高い酒です。
また、インターナショナル・サケ・チャレンジなど、新しいスタイルの日本酒コンクールで最高賞を受賞するなど、時代に合わせた柔軟な味わいを誇ります。
2010年には、ロンドンで開催されたインターナショナル・ワインチャレンジのSAKE部門に初出品し、「純米酒の部」と「純米吟醸酒・純米大吟醸酒の部」の2部門でゴールドメダルを受賞しました。
こうした数々の評価は、天保元年から現在に至るまで伝統を守りつつも革新を忘れず、本質の技を磨き高めて来た酒造の努力の上に飾られたものといえるでしょう。

■実直な酒 磯自慢 吟醸

磯自慢 吟醸は、原料に特A地区産の山田錦を使用しています。
高度に精白し、大井川伏流水を使って吟醸冷蔵仕込み室で低温醗酵させて造られた酒は、手にする人の期待を上回る味わいを届けてくれます。
香りの上品さとフルーティーで透明感ある舌触りに定評があり、優しい酸味がアクセントなる静岡型吟醸酒です。
いくら飲んでも飲み飽きず、和洋どちらの料理にも合わせやすい食中酒として絶大な人気を誇る逸品です。