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杜氏の名を冠したプライベートブランドもある磯自慢

■倒産の危機から脱したのは優れた杜氏のおかげ

静岡県焼津市内にある唯一の酒蔵が、1830年（天保元年）創業の磯自慢酒造株式会社です。
創業当時は磯自慢酒造でしたが、その後、株式会社として189年にわたる長い間、地酒を造り続けてきました。
長い歴史を持つ酒蔵だけに、さぞかしほかには負けない技術を持ち、安定した酒造りをしてきたのだろうと考えがちですが、日本酒は高度経済成長期にピークを迎えたのち、洋酒ブームが巻き起こったことで急速に飲む人が減っていきます。
日本酒ブームといわれる現在でさえも、ピーク時の販売量の1/3でしかなく、相変わらずワインや、テレビドラマのヒットによってウイスキーなどの洋酒に人気が集まっているのが実情です。
日本酒が飛ぶように売れた時代に量産した安い酒は、その後の洋酒ブームでますます売れなくなり、多くの地酒の酒蔵が姿を消しました。
多くの需要に応えようと大手メーカーが地酒の酒蔵に依頼し、桶ごと買い取った桶買いシステムによって地酒の品質は低下します。
地元の人たちが買わなくなったうえに、人気の衰退で桶買いもなくなり、倒産するしかなかったのです。

■恩恵から一転苦難の時代へ突入

磯自慢酒造もこの桶買いの恩恵にあずかったことで、のちに倒産の危機に直面してしまいます。
しかしながら、現在では一度は飲んでみたい日本酒の常連となるまでに高品質の酒を造れるようになったのは、一にも二にも、優れた腕を持つ杜氏のおかげだったのです。
現在、磯自慢酒造株式会社の社長と会長は、当時、磯自慢酒造の立て直しを図る決断をするにあたって、杜氏にいい酒を造ってもらうという選択をします。
けれど、安い酒を長い間造ってきたため、酒米の品質は悪いうえに、技術もいつしか失われていたのですから、杜氏としてもそう簡単に引き受けられるものではありませんでした。
それでも親子の熱意に打たれ、いい酒を造ろうと引き受けたのが志太杜氏だった横山福司さんで、現在磯自慢酒造の代表を務める寺岡社長は、磯自慢の味は横山杜氏が作り上げてくれたと断言してはばかりません。
そんな素晴らしい杜氏の腕が生み出した高品質の酒のおかげで、磯自慢酒造株式会社は間一髪のところで危機を脱したといえるでしょう

■横山杜氏から多田杜氏へ

現在、磯自慢酒造において筆頭杜氏を務めているのが、多田信男杜氏です。
横山杜氏は75歳で引退するまで、磯自慢で杜氏としてその匠の技を後に続く杜氏や蔵人に伝授しました。
多田信男杜氏は、造り手と飲み手の間に生まれる信頼感が、幸福な関係を紡ぐと考えています。
杜氏とは、磯自慢を愛してくれる飲み手はもちろんのこと、販売してくれる酒販店に対しての責任も果たすべきものであるという考えが根底にあり、これを一言で表すなら信頼以外の何物でもありません。
いい酒を造ることで信頼を回復させた横山杜氏によって築き上げられた信頼関係を損なわない、そんな酒造りを心がける多田杜氏へと磯自慢酒造の酒造りは受け継がれていると考えると、日本国中に知られる有名な酒へと変貌を遂げた理由がわかってきます。

■プライベートブランドは販売店との信頼の証

多田信男杜氏は、造り手側と飲み手との間はもちろん、間に入って販売してくれる販売店との信頼も、いい酒を届けるには欠かせないと考えています。
そのため、磯自慢ではプライベートブランドとして、特定の酒店でしか買えないオリジナル商品を卸しているのが特徴です。
多田杜氏の名を冠した、磯自慢 純米吟醸 多田信男は、特A地区東条産の山田錦を麹米55％、掛米50％まで精米した純米吟醸酒で、磯自慢が誇る独自の麹造りと酵母によって造られています。
日本酒や焼酎を取り扱う酒販店、「酒のやまもと」でのみ購入することができる磯自慢のプライベート・ブランド商品で、メロンを思わせる果実香りと濃い甘味が味わえる逸品です。
まろやかでフルーティーな味わいは磯自慢ならではで、ぜひとも飲んでみたい磯自慢ですが、ホームページで購入することができません。
まずは電話やメールで問い合わせる必要がありますが、手間暇かけても飲んでみたい特別な磯自慢です。