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長い歴史の中の紆余曲折から生み出した高品質の酒が魅力の酒造会社

■創業1830年の歴史を誇る酒造会社

磯自慢酒造株式会社の創業は1830年、元号にすると天保元年で、11代将軍家斉が治める江戸時代に米を扱う庄屋であり、焼津唯一の酒蔵でもありました。
地元の大地主であったことは、当時、米には課税がされており、小作農家から米をまとめ、幕府に納税する役割を庄屋が務めていたことからも明らかです。
米作りが終わる頃、酒造りに適した時期がやってくることもあって、米作りと酒造りの両方を行っていたのが磯自慢酒造でした。
高度経済成長期、飛ぶように売れる日本酒を途切れることなく供給しようと、品質の悪い地酒を大手酒造メーカーが桶買いしたことによって、地方の酒造会社を取り巻く状況は一変します。
とにかく酒であれば桶買いしてくれるのですから、できるだけ安い材料で造ろうと考えるのは当然のことで、これによって地方の酒蔵は大いに利益を得ました。
ただし、その後に待っていたのは桶買い停止による利益のストップで、品質の悪い酒を造っていたことから地元の人たちから見向きされなくなり、ついには倒産するしかなかったのです。

■磯自慢酒造が生き残れた理由とは

磯自慢酒造も桶買いのための酒造りをしていましたが、なぜ倒産することなく生き残れたかというと、昭和50年代に入ってまもなく、桶買いのために造っていた安い酒造りから高品質の酒造りへとシフトしたことでした。
現在の磯自慢酒造株式会社の代表を務める寺岡社長は、当時はまだ父親が社長を務めていましたが、酒類商社に勤務していたことで時代の変化をいち早く察知し、実家の酒造りの方針転換を強く進言します。
もし、商社に勤務せず、家業に勤しんでいたら、磯自慢もその長い歴史に終止符を打っていたかもしれません。
今では日本酒好きにとって一度は飲んでみたい憧れの酒となった磯自慢ですが、こうした高い評価と人気を得るまでにはさまざまな紆余曲折がありました。
まず、いったん落ちた酒の品質を戻すには、優れた杜氏の存在が不可欠です。
しかしながら、杜氏ほどその難しさを知っている者もまたおらず、説得には困難を極めます。
磯自慢が存続できるかどうか、生き残りをかけての酒造りは、志太杜氏である横山福司氏に託されました。
寺岡社長は現在の磯自慢の味は、横山杜氏が作り出してくれたものであり、横山杜氏は、現社長と当時社長で現在は会長である親子2人の情熱と決断がなければ、磯自慢はなくなっていたといいます。
横山杜氏がまさに火中の栗を拾う状況の中で杜氏を引き受けたのは、磯自慢酒造を守りたいという寺岡社長と会長の心意気に打たれたからだったのでしょう。

■酒米好適種へのこだわりと昔ながらの酒造り

酒米好適種として知られる山田錦にこだわり、さらに特A地区に指定されている最高級品質の山田錦を作り出す兵庫県東条町にこだわります。
山田錦といっても、作られる場所によってその味わいには差があるからです。
6年かけてついに栽培農家と契約を結んだ磯自慢酒造は、杜氏の匠の技と上質の米によって、見事な復活を遂げました。
2010年からは兵庫県東条町で栽培される山田錦を、さらに西戸（さいと）、常田（つねだ）、古家（ふるけ）という3か所に絞り込むという、画期的な日本酒造りに取り掛かります。
ワインでいうところの畑を指定して造るロマネコンティの手法で、そのため磯自慢は日本のロマネコンティとも呼ばれるほどです。
現在は3区画で栽培された山田錦のみを使い、3種類の磯自慢を造っています。

■本醸造でも上質さは変わらない

磯自慢 特別本醸造 特撰は、特A地区の山田錦を麹米55％、掛米60％にまで磨きあげて造った、贅沢な本醸造です。
磯自慢酒造が持つ長期間蓄積させた独自の作り方で生まれた麹に優良な酵母を使い、爽やかな吟香に、丸みを感じさせる甘い味わいが特徴のなめらかな飲み心地は、磯自慢だからこそ造れる上質の本醸造酒です。
そのままでも美味しく飲めますが、燗酒にしても美味しく、気軽に飲める本醸造酒でも手を抜かない磯自慢酒造の酒造りが実感できます。