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米作りの歴史とリンクする酒造りの歴史

■稲作とともに歴史を刻んできた酒

日本古来の酒といえば、稲作が始まった頃から米作りとともに歴史を刻んできた米と米麹、そして水から造り出される日本酒です。
縄文時代後期から弥生時代にかけて稲作が行われるようになり、米を使った酒もともに造られていたことが、遺跡の発掘からもわかっています。
そんな米作りとリンクしてきた酒造りの歴史ですが、近年は酒造りのための米作りが行われるようになりました。
酒米として、通常の食べる米とは区別されており、酒造りのためだけに栽培される特別な米です。
麹米として使うには特有の品質が求められることから、酒造好適米もしくは醸造用玄米という正式名称が付いています。
中でも酒米好適種として最も有名なのが、山田錦です。

■起死回生をかけて焼津唯一の老舗酒造会社がとった行動

高度経済成長期、大手酒造メーカーではフル稼働で生産しても供給量が追い付かないほど、日本酒需要が高まりました。
そのため、地方の酒蔵に頼んで酒を造ってもらい、桶ごと買い取ったのです。
とにかく酒が必要だった大手メーカーは、品質の悪い酒でも桶買いをしてくれたことから、安価な材料費でどんどん酒を造り、桶買いで儲ける地酒酒造会社が激増しました。
地酒を造る酒造会社はどこも小規模ですから、こんなチャンスはめったにありません。
飛びついたのも無理からぬところです。
とはいえ、需要はいつまでも続くわけではなく、徐々に供給がだぶついてくると、大手酒造メーカーによる桶買いもなくなっていきます。
品質を落とすのはいとも簡単ですが、いったん落とした酒の品質を再び上質なものに引き上げるのは並大抵のことではなく、地酒を造っていた酒造会社はばたばたと倒産していきました。
焼津唯一の酒蔵として長い歴史を持つ磯自慢酒造も、桶買いの恩恵にあずかった地酒会社ですが、早くに危機感を抱いたことから、素早く生き残りをかけて方針転換を図ります。
酒造りの職人である杜氏に再び手間暇かけた酒造りを依頼するとともに、より美味しい酒を生み出すために酒米にこだわったのです。

■杜氏の苦労と酒米に救われた磯自慢酒造

一度落とした酒の品質を引き戻すというのは、優れた腕を持つ杜氏にとっても非常に大変なことで、その苦労は尋常ではなかったといいます。
とはいえ、杜氏のプライドができないとは言わせなかったのでしょう。
磯自慢が持つかつての味わいを取り戻した功績は、職人技と気概以外の何物でもありません。
現在、磯自慢酒造を代表する寺岡社長は、当時はまだ父親が社長を務めていたことから、若さゆえのフットワークと先見の明を活かし、酒米の最高級品と位置付けられる山田錦に目を付けます。
山田錦は今では日本各地で栽培されていますが、その中でも特A地区という最高ランクの水田で造られる山田錦は特別で、兵庫県東条町の山田錦でしかあり得ません。
磯自慢酒造はこの最高級の山田錦にこだわり、手に入れるために農家を一軒一軒回ります。
ようやく一軒の農家から山田錦を提供してもらえるようになりますが、その説得にかかった年月は実に6年といいますから、まさに粘り勝ち以外の何物でもないでしょう。
とはいえ、米農家の方も最高ランクの山田錦を作る以上、上質の酒を造る酒造会社に提供したいという気持ちがあったでしょうから、桶買いのストップによって倒産の危機にある酒造会社と提携するのをためらったのも無理もありません。
それを考えると、酒米造りという新たな挑戦に取り組んだ米農家もまた、磯自慢がこれほどまでに有名で人気のある酒になったことを、磯自慢酒造ともども喜んでいるのではないでしょうか。

■最高級酒米が生み出す高品質の酒

磯自慢 大吟醸純米48は、磯自慢酒造が6年かけて説き伏せ、やっと手に入れた特A地区東条特上米山田錦を、48％精米して造った純米大吟醸酒です。
今や日本酒ファンにとって垂涎の的となった磯自慢の味を作り上げた杜氏と蔵人たちの技術とノウハウに、最高級の酒米を作る酒米農家の努力が相まって作り出されるのですから、美味しくないわけがありません。
収量を度外視して造った磯自慢純米大吟醸は、神秘的な吟醸香と奥深い味わいが楽しめる逸品です。