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数多くの銘酒が今や幻となった軽井沢という名のウイスキー

■ ジャパニーズウイスキーの歴史に残る数奇な運命のウイスキー
大正時代、日本で最初に庶民が洋酒に親しんだのがワインでした。
当時は原料の葡萄にちなみ、もっぱら葡萄酒と呼ばれましたが、ウイスキーも実は存在しています。
ただし、そのウイスキーは何が元になっているのかわからないアルコールに色を付けただけのまがい物で、海外でウイスキーなるお酒を見た誰かが造ったのであろう模造品を、当時の日本の人たちはウイスキーとして飲んでいたのです。
その後、本物のウイスキーを造り上げたのが日本のウイスキーの父である竹鶴政孝と、同じく本物のウイスキーを広めたいと願ったサントリーの鳥井信治郎であることはよく知られています。
この2人の創業者が造ったニッカウヰスキーとサントリーが、今も上質のウイスキーを世に送り出している一方で、ジャパニーズウイスキーの歴史において高い評価を受けながら、その歴史から姿を消すことになる運命を辿った蒸溜所とウイスキーが存在することは、ウイスキー好き以外にはあまり知られていません。

■ ワインのメルシャンが造っていた極上のウイスキー
メルシャンといえばワインとすぐに連想されるほど、ハウスワインとして毎日楽しんでいる人が多いワイン製造会社ですが、ウイスキー造りをしていた大黒葡萄酒、のちにオーシャンと社名変更した会社を1962年に買収したため、メルシャンはワインだけでなく、高品質のウイスキーを造る会社としてウイスキー好きには知られる存在となります。
ところが、メルシャンそのものもキリングループの傘下に加わったことで、ウイスキー製造事業からは撤退となり、2010年に軽井沢にあった蒸溜所は操業を停止、2012年には完全に閉鎖されました。
現在は蒸溜所が存在した場所には、当時のウイスキー造りに用いられていたポットスチルと呼ばれる単式蒸留器のモニュメントが造られ、往時を偲ばせています。
メルシャンの造るウイスキーの品質が非常によいと知られるようになったのは、海外の協議会においてウイスキー部門でしばしば金賞を受賞したためです。
さらに、軽井沢蒸溜所の名を冠した軽井沢に、能をモチーフにしたラベルや箱を造り、能シリーズとして売り出したことが海外のウイスキーファンの多くをコレクターにしたことも大きな要素です。
メルシャンのウイスキーは、味だけでなく見た目もよいとして、サントリーやニッカに隠れながらも、ウイスキーファンにとっては憧れのウイスキーが揃っていました。

■ 今やほとんどが幻となった軽井沢蒸溜所のウイスキー
メルシャンがキリングループの傘下に入ったことで、事業整理の対象となったウイスキー造りは、蒸溜所は閉鎖、原酒はすべて処分となります。
売り出された原酒のほとんどをスコッチウイスキーの本場であるスコットランドのボトラーズが買っていったことからも、知名度は低くとも上質なウイスキーを造っていたことがわかります。
今やメルシャンが世に送り出した高品質のウイスキーは、そのほとんどが幻となり、手に入れるのは非常に困難です。
軽井沢蒸溜所の味わいは、イチローズモルトで知られるベンチャーウイスキーに、最後のマスターブレンダーが在籍していることから、そこから推測するしかないのかもしれません。

■ 優れたブレンド技術が堪能できる逸品
軽井沢 マスターズブレンド 10年は、その名の通り10年以上にわたって熟成させたモルトとグレーンの原酒から、良質なものを選んでブレンドマスターがブレンドしたブレンデッドウイスキーです。
こだわりのゴールデンプロミス種麦芽とシェリー樽熟成での原酒が醸し出す味わいは、軽井沢蒸溜所にしか生み出せないものでした。
シェリー樽だからこそ出せる原酒ならではの果実香とコク、さらに濃い甘みが感じられる軽井沢蒸溜所の真骨頂といえるおいしさです。
イギリスで開催されるインターナショナル・ワイン・アンド・スピリッツ・コンペティションは、お酒の品質を協議し、ふさわしい賞を与える協議会で、2004年のワールドワイドウイスキー部門で金賞を受賞したのが、この軽井沢マスターズブレンド10年とあって、ウイスキーファンにとって一度は飲んでみたい幻のウイスキーです。