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菊姫合資会社が考える酒造りとは

■酒とは杜氏が造るもの

日本酒の造り手として知られる杜氏は、酒米の状態を把握し、いつ、どのタイミングでどのタイプの酒を造り始めるべきかということを、長年の経験から得た職人です。
この杜氏を筆頭に、蔵人と呼ばれる人たちが蔵に入り、力を合わせて造ってきたのが日本酒で、まるで我が子を育てるかのように手間暇かけて造る日本酒の製造技術は、杜氏なしには考えられません。
近年、大手酒造メーカーにおいては、杜氏ではなく最新鋭の機械を使って完全オートメーション化した酒造りも行われるようになりました。
そのメリットは、常に同じ味の酒を供給できるところにあります。
杜氏によって考え方も違えば感性も違うことから、杜氏が造る酒はその年の酒米の出来栄えに始まって、気象条件などに大きく左右されます。
同じブランド名であっても、去年は美味しかったのに今年は今一つということが起こるのは、杜氏による腕はもちろんですが、その年の酒造りを取り巻くあらゆる条件が影響しているからです。
とはいえ、この味わいの変化こそが杜氏が造る酒の醍醐味であり、同じ醸造酒であるワインにも通じます。
ランクごとに分けられたクリュと呼ばれる栽培地によって栽培されるブドウの品質の違いや、その年によってブドウの出来栄えも違うなど、条件によって上質のワインができあがる年もあればそうでない年があるのと同じです。
ワインと同じように、日本酒も出来栄えを左右する杜氏によって、その味わいが変化する酒だといえるでしょう。

■固定観念に楔を打ち込む酒蔵・菊姫

石川県白山市にある菊姫合資会社は、創業年は1570年頃とはっきりしていません。
今からおよそ450年もの昔にあたるという、大変長い歴史を持っている酒造会社ですので、無理もありません。
暖簾には菊姫酒造とあり、杜氏と蔵人たちによって美味しい酒が造られていることは、日本全国の日本酒好きにはすでにおなじみとなっています。
長い歴史の中で、菊姫もまた杜氏がさまざまな酒を造り出してきました。
蔵元である菊姫側が、杜氏に対してこういう酒を造ってほしいと依頼し、杜氏はさまざまな条件を考慮しながら、希望に添う酒造りを行います。
これが日本酒における王道の製造方法で、これが当たり前と考えられてきました。
けれど、この固定観念に菊姫は疑問を感じ、楔を打ち込もうとしています。
その疑問とは、菊姫や他の銘柄も含めて、販売している蔵元である側が、酒造りのノウハウをまったく知らないままで商売を続けていてよいのかと考えたからです。

■意識は変えて作り方は伝承する

杜氏によって酒の味が変わってしまうという点にも疑問を覚えたことで、菊姫ではいつ飲んでも変わらない菊姫の味わいを届けることが、蔵元としての責任であると考えるようになります。
それが日本酒メーカー・菊姫合資会社として果たすべき、最も重要な役割だと考えた結果、杜氏が持つ技術と知識をデータ化するという試みを行い始めました。
蔵元という企業として、杜氏の持つ技術をノウハウとして持っておくことが、酒造りの何たるかをまったく知らない蔵元にしないようにするためです。
そのうえで、杜氏と蔵人たちのチームワークが生み出す上質な日本酒造りはそのままに、蔵元としての責任も果たせると考えています。

■山廃仕込みが楽しめる極上の一本

菊姫 吟醸酒 山吟原酒1800mlは、長い日本酒造りの歴史を大切にしながらも、新しい要素を付け加え、進化し続けた結果生まれた個性ある吟醸酒で、山廃酒母で仕込まれています。
山廃仕込みで造る酒は、複雑な味わいの酒に仕上がるのが特徴で、この特徴から山廃仕込みは男酒とも呼ばれます。
腰の強さと厚みのある酸味が際立った、剛健な味わいこそ、山吟原酒の最大の魅力です。
とはいうものの、メロンやバナナを思わせるフルーティーさとミルキーな香りに、できたての原酒特有のフレッシュさが加わり、押しの強い骨太な山吟原酒をより魅力ある味わいにしているのはさすがです。
どんな飲み方をしても美味しく飲めますが、冷酒から順番にはじめ、ぬる燗へと移りゆく過程での温度変化で味が変わるのが特徴ですので、一升瓶を買っても困ることはないでしょう。