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万膳酒造の焼酎造り

■ 創業時とほぼ変わらぬ手間暇かかる造り方
霧島連山の自然に囲まれた山の奥にポツンと立つ万膳酒造の蔵は、焼酎ファンにとって知られた萬膳、萬膳庵、そして真鶴といった絶品の芋焼酎を造っています。
万膳酒造の小さな蔵のほかには訪れた人をもてなすためのゲストハウスが建てられていますが、それ以外に建物はまったくなく、霧島連山の山深くに置き去りにされた感すらあるものの、蔵もゲストハウスも木のぬくもりが感じられる木造の建物で、この佇まいがなんともいえない安心感を与えてくれる蔵元です。
霧島連山の山深くに蔵を建てたのは1991年のことで、万膳酒造が焼酎造りを断念せざるを得なかった創業者が亡くなった1969年から、30年の歳月が過ぎてからのことでした。
焼酎造りを再開するにあたっては、手間のかかる昔ながらの製法を選択しています。
そこには、ある人物の存在と、万膳の家に生まれた者が受け継いだ使命が大きく関わっていました。

■ 万膳酒造を見舞った大きな変化
今でこそ万膳酒造の芋焼酎といえば焼酎マニア垂涎の銘酒ですが、30年以上にわたって蔵は休業していました。
四代目当主の万膳利弘さんの父が1969年に亡くなったとき、利弘さんはまだ10歳で、とても蔵の経営を引き継げる年齢ではなかったからです。
蔵は休業し、利弘さんが大人になるまでは利弘さんの母が万膳酒店を切り盛りしていたのでしょう。
酒店経営ができる年齢になった利弘さんは、結婚して妻と2人、毎日朝早くから夜遅くまで配達に駆けずり回ります。
当時はバブル景気に沸いており、洋酒が飛ぶように売れる一方で、焼酎人気は低く、ほとんど売れませんでした。
焼酎が売れなかったために蔵を休業させて、ひたすら売ることに専念した万膳酒店が利益を上げる結果になったのは、結果的に万膳酒造復活につながったのですから、時代が味方したのかもしれません。

■ 万膳酒造復活のカギを握ったのは叔父
1991年、利弘さんは家族や親族を集め、蔵を再開したいと持ちかけます。
バブル景気で洋酒が飛ぶように売れ、酒店経営が順調だった万膳酒店の家族と親族にとって、もはや人気のない焼酎造りを再開するメリットはないも同然でした。
焼酎の造り方もわからないのに、どうやって蔵を再開する気かという声も上がったかもしれませんが、実は蔵を再開するにあたって、利弘さんは3年にわたって叔父の元で厳しい焼酎造りのノウハウを学んでいます。
黒瀬杜氏として、焼酎の原酒である蒸留酒から、日本酒やワインのような醸造酒に至るまで、ありとあらゆるお酒を造れる名人だったのです。
利弘さんにとっては憧れの存在でもあったことから、教えを請うのは叔父しかいないと思ったのも当然だったでしょう。
この叔父が宿里（やどり）利行さんで、黒瀬杜氏の中でも伝説の杜氏として知られた人でした。
その証拠に、宿里さんは森伊蔵酒造から引き抜きを受けていたのです。
その引き抜きを断って引き受けたのが、甥からの焼酎造りを教えてほしいという頼みでした。
利弘さんは3年にわたって、伝説の杜氏からしごき抜かれますが、蔵を復活させたいという強い思いから必死に食らいつきました。
そして今、名杜氏だった叔父が作ってくれた万膳酒造の焼酎の味を、教わった通りの昔ながらのやり方で造っています。
霧島レッカ水のまろやかさをより引き立てる昔ながらの木樽蒸留器が、万膳酒造の焼酎を他の焼酎とは違う極上の味わいにしているのです。

■ 人気の芋焼酎が絶品
萬膳 黒麹仕込み 芋焼酎は、芋焼酎に最も適しているとされる黄金千貫芋のみを原料に用いて、昔ながらの木樽で蒸溜しています。
さらにこれまた手間のかかる甕壷仕込みで貯蔵しているため、まろやかでありながら、黒麹特有の深みのある飲みごたえに優れた抜群の味わいです。
芋焼酎特有の芋臭さは少なめになっているうえに、華やかな甘さに木桶蒸溜によるほのかな木の香が楽しめる、芋焼酎初心者にも飲みやすいのが特徴です。
端麗な飲み口の爽やかな味わいは、芋焼酎好きなら満足すること必至の万膳酒造自慢の逸品となっています。