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霧島連峰の麓にある小さな山小屋の蔵

■創業は大正11年の焼酎の蔵元
焼酎マニア垂涎の的として知られる「萬膳」や「真鶴」を造り出しているのが、鹿児島県霧島市の霧島連峰の麓にある、小さな山小屋の蔵で焼酎造りをしている「万膳酒造」です。
創業は大正11年ですが、現在の霧島連峰の麓で焼酎造りを始めたのは1999年と比較的最近のことです。
しかも1999年以前の30年間は、まったく焼酎造りをしていなかったと言いますから焼酎マニアとしても驚きでしょう。
万膳家は蔵とともに酒店も経営していたことから、バブル期には飛ぶように売れる洋酒の販売に専念することを選びましたが、蔵を休業させた理由には、洋酒が売れに売れるから、売るほうに徹するのがいいという判断のほかにも深刻な理由がありました。

それは、焼酎がさっぱり売れなかったからです。
当時の万膳酒造の4代目・万膳利弘さんの蔵を休業し、ひたすら洋酒を売ることに徹するという万膳家の決断は、バブル期だからこその利益を生み出していました。
しかし、蔵元としての気持ちは複雑でした。

■焼酎造り復活への決意となった名杜氏の存在
1999年、30年ぶりに焼酎造りを再開することを決めたのは、現在万膳酒造当主を務める万膳利弘さんで、利弘さんの決断には祖父の弟の存在がありました。
祖父の弟の宿里利行(やどり・としゆき)さんは、偉大な造り手で、蒸留酒の焼酎はもちろんのこと、醸造酒である酒を造ることもできるという、杜氏としては珍しいあらゆるお酒を造れる人物だったのです。

4代目の利弘さんはバブル期に入ったことで焼酎造りをやめますが、実は宿里杜氏の教えを乞い、3年間にわたってアメとムチによってしごかれています。
宿里さんが森伊蔵酒造に引き抜かれる寸前のことで、又甥を指導して万膳酒造の味を造り上げた伝説の杜氏は、その後他界されました。
伝説の杜氏であった大叔父が造り上げてくれた万膳酒造の味をなんとかして守らなければならないという固い決意が、利弘さんに家族の猛反対を押し切ってまで焼酎造りを再開させる結果につながったのは間違いありません。

■万膳酒造の味は霧島連峰の恵みそのもの
偉大な杜氏の教えを受け継いで再開された万膳酒造の焼酎は、30年ぶりとは思えないほど上質なものに仕上がりました。
万膳酒造の焼酎が焼酎マニア垂涎の焼酎となっている理由の一つに、霧島連峰の山奥に場所を移したことによって、霧島連峰から湧きだす霧島裂罅水(きりしまれっかすい)という軟水によって引き出されるまろやかな味わいにあります。

1999年に再び焼酎造りを再開したことで万膳酒造は焼酎に詳しくない人からは、まだ歴史の浅い蔵元という認識を持たれがちです。
しかし、実は焼酎造りの歴史は長く、伝説の杜氏の存在で復活を遂げた波乱万丈の歴史を持っている蔵なのです。

■再開後は逸品が続々と
休業している間も万膳酒造の代名詞となっている真鶴はほかの蔵に頼んで造ってもらっていましたが、再開して早々に、「万膳 流鶯 黄麹仕込み 芋焼酎 和紙ラベル」といった逸品を生み出しています。
2002年に万膳酒造の限定品として販売された、和紙ラベルを貼った酒瓶が特徴の銘柄である流鶯は、再開後の萬膳酒造を代表する銘柄と言っても過言ではありません。

麹菌には秋田今野の吟香黄麹を使い、手造り麹にかめ壷仕込み、木樽蒸留といった人の手による昔ながらの製法を軸にして造り上げたのが特徴で、そこには現在の万膳酒造を支える黒瀬杜氏の存在が欠かせません。
黒瀬杜氏の卓越した技が生み出した万膳酒造の流鶯 黄麹仕込みは、焼酎を最もおいしく楽しめるお湯割りや、品質のよさをダイレクトに味わえるロックがおすすめです。
流鶯は口当たりが優しく滑らかな味わいが特徴で、凝縮された香りと旨み、黄麹がもたらす華やかさなどが確かな飲み応えとなった、贅沢な要素が満載の逸品です。
焼酎マニア垂涎の的の蔵というのも、これを飲めば納得です。