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霧島連山の奥深くで再スタートを切った万膳酒造

■ 万膳酒造再スタートの地は霧島連山の奥深く
焼酎好きにはよく知られている銘酒を生み出す万膳酒造は、鹿児島県霧島市の霧島連山の奥深くという、自然に囲まれたというよりはもはや山奥に蔵を持っています。
蔵の側にはゲストハウスがありますので、訪れる焼酎好きを快く、そして温かく迎えてくれますが、車でありながら行けども行けどもその姿が見えてこないことに、不安を感じる人も少なくないのです。
それほど山奥を選んで再スタートを切ったのには、理由があります。
この場所でなら、霧島連山から湧き出す霧島レッカ水と呼ばれる非常に口当たりのやわらかい軟水が豊富に手に入るためです。
焼酎に限らず酒造りを大きく左右するのが水であるのはよく知られており、30年以上のときを超えて万膳酒造の蔵を再開するにあたっては、どうしても譲れない条件だったのでしょう。
創業者である父をまだ10歳という幼い時分に亡くした四代目当主の万膳利弘さんにとって、蔵を再開するということは父が作った万膳酒造の名で、もう一度焼酎を世に送り出す重責を担うことでもあったからです。

■ 奇跡的な関係が万膳酒造を新たに作り上げた
山の奥深くに蔵を建てた利弘さんですが、万膳酒造の蔵を再建し、再び焼酎を造るためには、まずは師匠となる存在が必要でした。
焼酎造りについてはほとんど知識がなかった利弘さんに、わずか3年という短い間で上質の焼酎造りを可能にさせたのは、どんな酒でも造れる伝説の杜氏だった叔父の宿里（やどり）利行さんがいたからです。
叔父の酒造りの技術のすごさに畏敬の念を抱いていた利弘さんは、迷うことなく宿里利行さんに教えを請います。
宿里さんもまた、復活に取り組む甥を助けたいと思ったのでしょう。
飴と鞭でしごき抜くこと3年で、万膳酒造の極上の味わいを造り出し、さらには利弘さんを立派な蔵人に育て上げたのです。
その後、間もなく宿里さんが亡くなったことを考えると、最後の力を振り絞って甥に焼酎造りの極意を、まさに全身全霊をかけて教えてくれたといっても過言ではありません。
伝説の名杜氏が叔父として側にいてくれたことは、利弘さんのいつかまた焼酎造りを再開したいという願いを現実のものにしてくれたのです。

■ 手間暇かかる造り方は父から子へと継承
1991年、周囲の反対を押し切って蔵の再開を実現させた利弘さんには、2人の息子がいます。
蔵人として蔵に入り、朝早くからの重労働に従事しているのは次男の博幸さん、長男の尚幸さんは小売店である万膳酒店でよりよいお酒を知ってもらおうと、それぞれに異なる分野で活躍しています。
父から子へと万膳酒造の歴史は着実に引き継がれていることが、幼くして父を失った利弘さんにとって、非常にうれしいことであるのは想像に難くありません。
万膳酒造に極上の焼酎をもたらしてくれた叔父の手間暇かかる造り方を守って焼酎造りを行う父の背中を見て、博幸さんは蔵人として、尚幸さんは小売店経営を頑張っているとなれば、万膳酒造がこの先どのような驚きをもたらしてくれるのかが楽しみです。

■ 万膳酒造における最高級プレミアム焼酎
萬膳 匠の一滴 山田錦仕込み 2008は、原料芋に芋焼酎に最適な黄金千貫（こがねせんがん）の中でも特に良質のものだけを厳選し、麹米には山田錦、そして麹菌には秋田今野の吟香黄麹を用いています。
これらの厳選した材料を引き立てる仕込水は口当たりがやわらかいのが最大の魅力である霧島レッカ水です。
万膳酒造では、手間のかかる甕仕込みを行っているため、匠の一滴は、3～4年に一度というスパンでしか発売されない限定銘柄となっています。
万膳や萬膳庵、そして真鶴といった人気の芋焼酎の銘酒を持つ万膳酒造の中で最高にプレミアムな焼酎としてマニア垂涎の的です。
さつまいもの芳醇で甘い香味は嫌味がなく、非常に端麗で上品です。
これに山田錦と黄麹が加わり、まろやかで奥深い味わいを堪能できるまさに極上の芋焼酎で、やわらかな舌触りはすべてがまろやかだと称される万膳酒造の焼酎の中でも、ひときわ際立ったおいしさです。