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宮城峡蒸溜所誕生の理由とは

■余市では追い付かなくなったのが最大の理由
戦後の荒れ野腹から国民が必死になって国を興そうと頑張った結果、日本には高度経済成長期が訪れます。
団塊の世代を中心とした人たちによって、一躍先進国の仲間入りを果たした日本を待っていたのは、世界からの貿易協定圧力でした。
1964年5月から始まったGATTケネディ・ラウンドによって、日本はイギリスを中心に、強い関税引き下げ要請を受けます。
特にイギリスからの輸入酒に対する関税が高すぎるとして、引き下げるようにとの圧力を跳ね返すことができなかった日本政府は、1971年1月1日を持って洋酒の完全自由化を実施したのです。
輸入量が増えたことで、ニッカウヰスキーをはじめとする国内ウイスキー製造メーカーは、当然のことながらこれまでよりも苦戦を強いられました。
この状況は、第三次ウイスキー戦争とまで呼ばれたほどです。
お酒が飲める年になった団塊の世代たちは、若者特有のハイカラ好きもあって、洋酒の代表であるウイスキーに注目し、人気が集まりました。
関税が引き下げられたことで輸入酒が安くなれば、ステイタスという観点から海外の洋酒の売れ行きが伸びます。
消費量が伸びたことも相まって、ニッカウヰスキーとしては生産増量と、より上質なブランドステイタスを持つウイスキーづくりのために、余市以外に拠点を持つことを考えたのです。

■政孝自身が陣頭指揮を執って探したのは余市と同じ
余市蒸溜所の建設場所を見つけたときの政孝は、ただひたすら自分が求めるウイスキーづくりができる土地を探していた、夢に燃えていた若者といっていいでしょう。
けれど、第二の拠点となる蒸溜所には会社と社員、そしてその家族といった大勢の人たちのこれからがかかってきます。
余市蒸溜所とは違う重荷を背負うことになる新たな蒸溜所探しという重責を担ったのもまた、やはり竹鶴政孝でした。
政孝は、軌道に乗った余市蒸溜所を甥であり、のちに養子とした威（たけし）に任せると、自ら2つ目の蒸溜所探しに向かいます。
条件はきれいな水があることと、余市蒸溜所よりも低い位置であることでした。
低い位置というのは、具体的には標高のことを指します。
宮城峡を訪れた政孝は、この地を流れる新川に目を留めて驚きました。
その澄んだ水は非常にきれいで、なんと政孝はグラスに新川の水をすくい、ブラックニッカで水割りを作ってその場で飲んだといいますから、歴史に名を残す人はすることが違います。
水割りのおいしさで新川の水に惚れ込んだ政孝がこの地を第二の蒸溜所にすると決めるのに、まったく時間はかかりませんでした。
宮城峡もまた余市と同様、政孝だからこそ見つけられたのかもしれません。

■宮城峡で生み出されるシリーズ
余市に続くニッカウヰスキーの拠点として生まれた宮城峡蒸溜所では、ここでしか買えないシングルモルト宮城峡12年シリーズを造っています。
もともとはシングルモルト仙台と名付けられていましたが、2003年からは宮城峡の名を取って、シングルモルト宮城峡として3種類を限定販売しており、ここでしか買えないとあって大人気です。
NIKKA（ニッカ） シングルモルト宮城峡 12年シェリー＆スイートは、3種あるシングルモルト宮城峡12年シリーズの一つで、シェリー＆スイートという名の通り、樽熟成由来の華やかな香りが印象的です。
シングルモルトウイスキーとしては珍しく濃い琥珀色をしているのは、黒砂糖にカラメル、エスプレッソコーヒーにドライフルーツなどの要素が盛り込まれているためで、その豊かな香りとフレーバーが魅力の特別なウイスキーに仕上がっています。
優しい甘みにはじまり、複雑な旨みが加わる味わいには強いアルコールが感じられますが、まるで舌の上を優雅に転がるかのように口の中全体に広がって、長い余韻を残しながら楽しませてくれる、高級感あふれるウイスキーです。
これを飲めば、ほかの2本と合わせてシリーズすべてが飲みたくなることでしょう。