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■歴史ある小さな酒造
焼酎好きで森伊蔵（もりいぞう）を知らない人はいないでしょう。
それほどまでに有名なのですが、非常に手に入りにくい幻の焼酎と言えます。
販売しているのは鹿児島県の森伊蔵酒造で、鹿児島産の有機栽培のサツマイモを原料として造る丁寧な芋焼酎です。
伝統的なかめつぼ仕込みで生産する焼酎で、独特な臭みが無く、非常にまろやかで洗練された味わいが高い人気を誇っています。
森伊蔵酒造の創業は1885年、明治18年で、鹿児島県垂水市に蔵を構えています。
かめつぼ仕込みは当時でも珍しい造り方でしたが、創業当時からこの方法を採用し、以来ずっと守り続けています。
しかも酒造は120年の歴史を持つ木造蔵をそのまま維持して稼働しているので、非常に歴史ある環境自体が残っているのも大きな特徴と言えるでしょう。
紫外線による品質劣化を防止するため焼酎の瓶に茶瓶を使用し、手間暇をかけて丁寧に丁寧に焼酎を造り上げています。
森伊蔵酒造は約150坪という決して広くない敷地面積ですが、それだからこそ伝統的な酒造りが行えるのかもしれません。

■四代目当主に敬意を表する五代目の挑戦
幻とまで言われる森伊蔵は、その名を四代目当主からいただいたと言われます。
森伊蔵酒造は、創業からずっと実直な商売で繫盛していたのですが、一時経営が傾いた時期もあったと言います。
その時には破産の危機にも陥ったと言われますが、五代目当主は思い切って森伊蔵酒造を有限会社に法人化し、見事に経営を立て直しました。
そして五代目当主は、代々受け継がれて来た酒造の技に敬意を払い、先代当主、四代目森伊蔵の名を焼酎に冠しました。
それが今、高い評価を受ける芋焼酎、森伊蔵の由来となっています。
五代目当主は森覚志氏ですが、当主となった1986年、昭和61年頃は大手メーカーの焼酎が市場を席巻し、森伊蔵酒造のような小さな酒造にとっては非常に厳しい時代でした。
森覚志氏は経営を立て直すために、原料から製造、販売までの工程の刷新に取り組むことを決意します。
まず、原料となるサツマイモや麹用米はそれまで仲買人から仕入れていましたが、これらを直接農家から仕入れる手段に切り替えました。
そして、それまで出来立てで新鮮な焼酎が一番とされていた常識に逆らい、そこから更に6ヶ月の熟成を行います。
当時焼酎と言えば中身が見える透明な入れ物が当たり前でしたが、これを焼酎の品質を損なわないよう紫外線をカットする茶色のボトルに変更します。
そして更に光を通さないよう、ボトルを和紙でしっかりと包み込みました。
高品質であること、他商品とは一線を画すものであることを目からも伝えられるようラベルにも和紙を使い、デザインも洗練されたものに切り替えました。
今でこそこうした販売方法は多く見かけられますが、実は森伊蔵が苦心の末、編み出したスタイルと言えます。
そして焼酎の生産が機械へ移行する時代の流れの中、昔ながらのかめ仕込みにこだわり、代々引き継がれて来た伝統の製法をしっかり守ったのです。
更に技術を磨き上げ、品質にもこだわり続けた結果、仕上がった焼酎はこれが本当に芋焼酎かと目を見張られるほど、洗練された上質の酒となりました。
森覚志氏はその酒に偉大な父の名をいただき、ここに幻の焼酎、森伊蔵が生まれたのです。

■西郷隆盛に献上された森伊蔵 隆盛翁
森伊蔵は全国で熱狂的に愛され、常に品薄状態にあります。
平成5年頃には販売日前に酒造の外まで列が出来、平成8年にはフランスのシラク大統領が森伊蔵を愛飲しているとのニュースも流れました。
その中で森伊蔵 隆盛翁（たかもりおう）は、薩摩が誇る英雄、西郷隆盛に実際に献上されたと言われる銘酒です。
もともと生産量が少量に限られていますし、入手が困難な隆盛翁はファンにとっては幻の逸品と言えるでしょう。
なかなかお目にかかれるものではありませんが、まろやかで旨みのある味わいと、品のある洗練された風味が特徴です。