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基本はモルト、でもそれだけではないのがニッカたる理由

■ニッカウヰスキーといえばシングルモルト
ニッカウヰスキーといえば、シングルモルトウイスキーというイメージを持っている人は多くいます。
それは、創業者である竹鶴政孝が単身スコットランドに乗り込み、20世紀初頭のスコッチウイスキー造りを支えた蒸留機の構造を学び、その技術を持ち帰って日本で本場顔負けのスコッチウイスキーを造り上げたことにあります。
竹鶴政孝が本場のスコッチウイスキー造りを学びに行く以前から、日本にはウイスキーがありましたが、そのお酒はウイスキーとは似ても似つかぬ粗悪なものでした。
分家に生まれたものの、政孝は高等学校醸造科で酒造りを学び、本家が営む摂津酒造に勤めていたことから、社長命令によりスコットランドへ本物のスコッチウイスキーの造り方を学びに行くことになります。
キャンベルタウンにあるヘーゼルバーン蒸留所で、言葉もろくに通じず、職人たちには無視される厳しい環境の中、政孝は職人でも嫌がるポットスチルの掃除を自ら買って出たのです。
ポットスチルとは、当時のウイスキー造りに用いられていた蒸留釜のことで、掃除をするには巨大な釜の中に入る必要があります。
暑い中で掃除をする作業はつらく、職人が敬遠するのも無理はありません。
そんなポットスチルの中へ、政孝は下着だけの姿で飛び込み、毎日掃除を続けました。
すべてはポットスチルの構造を自らの目で見て調べるためで、その詳細がノートに克明に記され、今も残っています。

■職人を動かした熱意
何としても本物のスコッチウイスキーを造りたい、その一心で毎日ポットスチルの掃除を行い、ひたすらノートを取る様子を見て、一人の職人が声をかけます。
この瞬間、竹鶴政孝にスコッチウイスキーの造り方が伝授されたのです。
政孝はついに本場スコッチウイスキーを造るための技術と、ポットスチルの内部構造という知識を得て帰国します。
その傍らには、当時は珍しい国際結婚だったスコットランド人女性、リタの姿がありました。

■基本はシングルモルトが政孝のウイスキー
スコットランドに似た場所を見つけたと政孝がうれしそうにリタに報告したその場所が、北海道の余市でした。
政孝は徹底してモルトウイスキー造りにこだわり、さまざまな困難を乗り越え、スコットランドで学んだ知識と技術を活かして、ついに本物のシングルモルトウイスキーを造り上げます。
ピートを燻して造ることから独特の香りがあるのが特徴で、麦芽だけを使って造るシングルモルトウイスキーこそが、政孝の目指した日本で造りたかった本場のウイスキーの味でした。
その後、政孝が掃除をし続けたポットスチル、いわゆる単式蒸留機だけでなく、パテントスチルと呼ばれる連続式蒸留機を使い、ニッカウヰスキーはグレーンウイスキーも造るようになります。
あれほどシングルモルトにこだわった政孝ですが、グレーンウイスキー造りにも一切妥協せず、真剣に取り組みました。
体を張って学び取った政孝のウイスキー造りの知識を守ってきたからこそ、グレーンウイスキーをモルトウイスキーに劣らぬ上質なウイスキーにできるのが、ニッカのニッカたる理由と言えます。

■モルトとグレーンの美味しさのいいとこどり
NIKKA Yzは、1984年7月～1993年5月に造られた若者向けのウイスキーで、現在は造られていないことから貴重なウイスキーとなっています。
ラベルには1級と記載されており、かつてモルトの含有率によって品質がわかるようにと、等級を記載する決まりがありました。
1989年にこの表示はされなくなったことから、この等級表示があるウイスキーは一目で1989年以前のものだとわかるわけです。
若者向けに造られたこの1級ウイスキーは、ニッカだからこそできる上質のモルトとグレーンの原酒をブレンドして造ったブレンデッドウイスキーとなっています。
その滑らかな口あたりは、当時の若者にウイスキーの美味しさを教えたことでしょう。